さよなら、銀ちゃん
でっかい目玉で僕らを愉快な気分にさせてくれたきんぎょの銀ちゃんがとうとう死んでしまいました。
2001年8月13日、松かさ病がぶり返してのことでした。
また、その少し前より銀ちゃん隊の”ちゃちび””ひめ””黒ひげおやじ”も次々と松かさ病の症状が出てしまい、治療も及ばず帰らぬきんぎょとなってしまいました。(今のところ一匹残った”くろちび”に症状は出ていません)
インターネットという世界にライブカメラという形で”勢い余って”泳ぎだした(ださせた?)きんぎょたちは、小さな水槽の中の暢気な暮らしぶりにもかかわらず、僕やかみさん、そしてここを通して知り合った多くの方々と時間を共有してくれました。
思えば銀ちゃんが松かさ病でいよいよ大変!というときには、よこいちさんやグレイモさん、うろこさん、そのほか多くの方々とハラハラドキドキしながらみんなで銀ちゃんの水槽を取り囲んでその病状に一喜一憂したという思い出があります。でも、直接お会いしたことがあるのはよこいちさんだけなんですよね。
不思議な世界、不思議な関係の真ん中に大きな目玉の銀ちゃんがいたわけです。
1年と少し、僕はきんぎょの銀ちゃんカメラを通して銀ちゃんの淡々とした日々を覗き見していたわけですが、そこで多くの方々に出会い、実に様々な経験や思いを持つことができました。
こうなってみて、やっと実はこれって銀ちゃんが大きな目玉で眺めていた風景だったんだなぁと、気がついた次第です。
天晴れな金魚とご声援いただいた皆さんへの感謝のためにここに少しだけ、その風景を書き留めておきます。
出目金と目があった日
去年の夏、僕は頭の半分に「夏はやっぱ金魚だよなぁ」、もう半分に「インターネットで何かしたいなぁ」という当時としてはまるで関係ない2つのことを考えながら家の近所をかみさんと歩いていました。
そして「おっ、金魚はやっぱりこういう店だよね」とかなんとか言いながら、とあるひなびたペット屋さん、昨今のペットブームで店先に犬や猫の餌などを大量に積み上げてはありますが、実は元金魚屋さんでしょって風情のお店ですが、に入りました。
僕はもう10年くらい”熱帯魚”や”水草水槽”方面に入れ込んでいて、”青いフチ”の無い、CO2添加システムやらメタルハライドランプやらで重装備をして明るくシャキッと仕立てられた水槽を追求したりしていました。しかし同じ水関係でも”水草といえば金魚藻”というこの世界はまったく異次元で、近所にありながらこのお店に入ったことはありませんでした。
水槽を一つずつ眺めて「きんぎょって以外と大きいなぁ」などと思いながら、なにかピンとこない感じがしていたのですが、ふと”中国産銀出目金”という札が目に入りました。金魚なのに銀ってのはおもしろい!と思ったのですが、その札の水槽には赤いらんちゅうみたいなの(じつは金魚の種類もよく判らない)が数匹見えるだけです。
とそのとき突然”目玉”と目が合いました。
一瞬シュモクザメに睨まれたような気がしたのですが、よくよく見るとその金魚はガンメタカラーで一昔前のSFに出てくるロボットか宇宙船のようなデザインをしています。が、いかんせん目玉の大きさのバランスが悪く、はじめからスーパーデフォルメ状態で、しかもその目玉が抵抗になるのかずいぶんへたくそな金魚泳ぎをしています。
「ありゃま」「す・ご・い」「かわいい!」
かみさんと二人で、もしかしたら半日ぐらい口をあけて眺めていたかもしれません。
結局、気がついたときにはどこでどうやって飼うんだという見境もなく誘拐するようにその金魚を家に連れて帰りました。
そしてこの帰り道あまりにインパクトのある金魚との出会いに頭が混乱し、思い浮かべていた二つの考えが撹拌され、家についたとたん「きんぎょの銀ちゃんカメラ」が頭の中から転がり出ました。
2000年7月30日、”銀ちゃん”の大きな目玉に映る風景の中に僕らが登場した日です。
金魚の飼い方
今は夏ですが、今頃は銀ちゃんカメラをやっているWebサーバーのログを見ていると検索エンジンで「金魚の飼い方」とか「金魚の病気」というようなキーワードを検索してホームページを訪れる方が一気に増えます。
僕も去年の夏はインターネットでこれをやっていました。
というかはじめは”金魚を飼うのは簡単”と思っていました。
ガラスの水槽に五色石を敷いて、エアーポンプ、金魚藻、あとはライブカメラの都合で蛍光灯を明るめに点けて準備万端という感じでした。
ただ、ここで熱帯魚歴十数年という実はちょっと見当違いだと後で判る知識が頭をもたげ「金魚は水を汚すし頻繁に水換えするのは面倒だから一気にできあがったフィルターで水を作ってしまえ」と考えた訳です。
少し説明すると、水槽のような閉じた水環境では魚が住み易いきれいな水の状態を維持するために適度に水を換えてゆかなければいけませんが、バクテリアの力を使った浄化フィルターを使うとこの頻度を減らすことができます。しかし、水槽をセットした当初はバクテリアの力も弱いため、なかなか水質が安定しなかったりします。
そこで僕は他の熱帯魚の水槽で使っていた年期の入ったフィルターを銀ちゃん水槽に転用して、はじめから浄化力の高い水槽を作ることを考えた訳です。
早速こうして水槽をセットして、銀ちゃんにはぴかぴかの透き通った水の水槽に入ってもらうことにしました。
水量は銀ちゃん一匹でしたから10リットルちょっとくらいでしたが、泳ぎの下手な銀ちゃんのために水流を工夫し、隠れ場所の土管(実は瀬戸物の茶香炉の台)なども入れてなかなか好い感じの水槽ができました。
しばらくは銀ちゃんも”銀ちゃんパワー炸裂”という感じで、餌をねだって水槽から飛び出すような勢いで暮らしていました。
が、しばらくして銀ちゃんは突然ひっくりかえるようになってしまいました。
初めてライブカメラの映像にひっくり返った銀ちゃんの姿が映し出された時には、仕事場で昼休みだったのですがショックでした。あまりにも悲惨な映像でしたので会社からホームページを操作してライブを中断し、即家に飛んで行こうと思いました。(さすがに「金魚の様子がおかしいので帰ります」ってことはできませんでしたが...)
魚がひっくり返って浮いてしまうというのは非常にやばい感じですから、インターネットで病気や飼い方について猛烈に調べました。
そして出会ったのがよこいちさんやグレイモさんたち、頭でっかちさんがやっている金魚のメーリングリスト、獣医師広報板というフォーラムのみなさんでした。
それでまぁ諸説紛々ってところもあるのですが、いくつか金魚の飼い方の教訓が得られました。
- 古いフィルターの転用は実は古い水を作り出し、病気の巣となるかもしれない。
- 金魚はでっかい。水槽もでっかい方が良い。
- 熱帯魚でよく使う密閉型のフィルターってメンテナンスなどを考えると金魚にはあまり向かない。
- やっぱり金魚は陽の当たる戸外の池のようなところで緑色の水で飼うのがよさそう。
- 病気には塩と水換え。
- 松かさ病にパラザンの経口投与は効いたが、体力が無くなるとお手上げ。
- 浮いてきたら餌抜き。でも長引いたら隔離したほうが良い。
- 普段の水温は低い方が無難。病気の時は30度くらいまでは上げられる。
他にもいろいろ教わったりしたことはありますが、ここに挙げたものは銀ちゃんが身をもって教えてくれたものです。
今思うと銀ちゃんの目にはずいぶん”ひっくり返った”世の中が見えていたのかもしれません。
すまぬ。銀。
”ライブ”カメラ
銀ちゃんにそそのかされてはじめたようなライブカメラでしたが、これはおもしろいものだと思いました。今は商売としても流行っていますが、連れて歩くことができない金魚を何処にいても眺められるのですから楽しいですね。
ちなみにシステムはMuse Ishikawaさんの「ListCam」というものを使わせていただきましたが、これはライブカメラをやっていていろいろと工夫が必要なところに細かく配慮された大変よいソフトです。僕のところではファイル転送やアーカイブの保存などの都合でキャプチャ以外のところは別に仕掛けを作りましたが、最新のバージョンはファイル転送も含めてオールインワンでライブカメラが実現できます。
これからライブカメラをとお考えの方は是非試してみてください。
ところでライブカメラには技術的な部分以外で実に悩ましいところがあります。
銀ちゃんカメラでは今回のようにたびたびライブを中止するようなことがありましたが、登場している生き物が具合悪そうなときにそれでも中継をするのか!ということです。
生き物ですからいつも調子よく暮らせるわけではありませんし、そんなときカメラで覗いたりするのは猫でも金魚でもミジンコでもヤだろうなぁと思うわけです。(ミジンコの場合具合が悪いということを察知するには相当修行を積まなければならないと思いますが...)
本音としては具合が悪い様子(たとえば病気の症状)なども詳しい方に見ていただいたりして「今なら○%の塩浴で治る!」というようなアドバイスをもらえれば良いのになぁと(ほんとかなぁ)思ったりもしましたが、一方見ている皆さんに余計な心配をかけてはとも思うわけです。
でも銀ちゃんの場合もしかしたら”オレの生きザマ”を全部中継しろ!などと思っていて、僕もロバート・キャパのような態度で臨まなければならなかったのかもしれませんけどね。
インターネットなどの技術のおかげでものすごく簡単に個人(的な部分)が世間に躍り出ちゃったりするようになったわけですが、昔ならあまり悩みにならなかったこうした問題もひっくるめて躍り出ているということを考えておかなきゃいかんのですね。
また、僕のところでは他にも生き物をいろいろ家に連れてきて養ったり養われたり(?)していますが、今までは死んでしまったのでお墓に埋めましたなんていう話は取り敢えず悲しいので思い出すの省略、という態度でうやむやにしてきましたが、今はこうして皆さんおなじみの銀ちゃんのことですからお話をしておかなければなどと、こんな文章を書いているわけです。
それとできれば銀ちゃんカメラのように生き物中心で覗くタイプのライブカメラは”見せ物”のようにしたくはないですね。
生き物系の理想は淡々とその気配をお伝えする”ライフ”カメラのようなものがいいですね。たとえばずーとどこかの壁が映っているカメラがあって、ときどきクモやダンゴムシが横切ったり、ラッキーだとヤモリがこっちを向いてニヤッとするなんていうカメラです。
銀ちゃんも銀ちゃん隊もいなくなり、今後どうするかちょっと考え中なんですが、”草むら”カメラとか”壁”カメラとか悩みの少ないのが好いかもしれないなぁなどと思います。
これからどうするか、今は僕が銀ちゃんに”覗かれている”感じがしてしまいます。
さよなら、銀ちゃん
まさか一匹の金魚が僕やかみさんの心の中にこれほどの場所を占領してしまうとは思いませんでしたが、1年間銀ちゃんネタで笑ったり悩んだりずっと覚えていたいことをたくさん手に入れることができました。
そして、それをライブカメラという技術により、僕やかみさんの住んでいる場所から少し範囲を広げた世界にいらっしゃる皆さんと共有できたことは本当にラッキーでした。
8月13日朝仕事に出る前、銀ちゃんは松かさ病の影響らしい水が溜まって膨張を続けた左目でどこを見るというでもなくじっとしていました。すでに目と体表からは出血しており、塩浴などの手当の効果もほとんど見られない状況になっていましたが、もうすぐお盆休みなので休みになれば付きっきりで看病もできるし、と仕事に出かけました。
仕事場でふと「ライブカメラを作動させておけば死に目にあえるかも」と考えましたが、それは銀ちゃんカメラの役目ではないと思いました。
その日帰ると銀ちゃんは相変わらず大きな目玉でこちらを見ているようでしたが、その目に光はもうありませんでした。
さよなら、銀ちゃん。
2001年8月16日 ぎんかめ
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